薫る夕暮れ、わかりはじめる

読んだもの、観たもの、いただいたもの、詠んだ短歌などについての記録。

12月3日(火)付・近藤芳美『埃吹く街』

12月3日(火)

◇よくわからぬことをよくわからぬと思うことで一日を費やした。寝る前の結論として、あまり人のことを気にせずにやりたいことに惜しみなく時間を注ぐと決めた。人生での一番の、夢にみた贅沢。

◇夕刻、居間の掃除。2ヶ月前に買ったまま放りっぱなしにしていた新しいソファーカバーもきちんとかぶせた。クリスマスツリーを出すのをこども達に任せたら、大喜びであっという間に組み立ててくれた。ある程度の水準で自分が幸せであることはむしろ義務だ、と思った。

◇『埃吹く街』。近藤芳美の文体の、どこかじゃりじゃりと砂が混ざっているような感じは一体何だろう。言葉やものの取り合わせによる叙情を抑えているかのようで、描かれている事柄や行為そのものに心が動かされるような文体。作者の周りの人たちへの愛情ではなく、むしろ時に突き放してすら描くことで彼らの仕草そのものが提示されている。結局近藤芳美の職場や妻や行為のなし手としての近藤を好きになったような読後感。姿勢としてとてもよく解るしこの文体を私は好きだ。
 また、読んでいてわからないことがやはり多い。突然敬語になる歌は誰に敬語を使っているのか、とか、これはおそらく当時の象徴的な事物なのだろうけれど何を象徴しているのかが把握しきれない、など。今聞いておかなければ失われてしまうことがたくさんある気がする。
 
   戦ひの終らむとする前にして長安を恋ひ行きたまひける(←この「たまひ」は何?)
  いつの間に夜の省線にはられたる軍のガリ版を青年が剥ぐ
  起重機の並ぶ地平に上る月とび色をして浮き上りたる

  胸を下に寝ぬれば月の清くして一人の如くつぶやける妻
  かぎりなく音階を引きくりかへす降る事もなき夜のくもりに

◇「幸せ!ボンビーガール」でゲストの志村けんが「貧乏は夢への準備運動だな」と言っていた。まさに今日の私が聞きたい言葉で、彼を好きになった。

◇読んだ本
『近藤芳美集』1『埃吹く街』