薫る夕暮れ、わかりはじめる

読んだもの、観たもの、いただいたもの、詠んだ短歌などについての記録。

題詠blog2014後半(051~100)

《題詠blog2014後半(051~100)》

051:たいせつ

はじめての白髪は恩寵のようでたいせつにジップロックにしまう

052:戒

閉ざしたる窓、その内のひとりきりの戒厳令をわたしのために

053:藍

うまいよ、と自慢も出るね女の子用ラケットに藍のテープを巻きぬ

054:照

照りながら降る雨がみたい光もない水もない温度もない食事

055:芸術

壁中におされた小さな手形では驚かないとても芸術的だね

056:余

またいなくなるから手紙書かなくては余白が近ごろはひからせる

057:県

お金のないはじまりだったねうえの子は埼玉県西川口生まれ

058:惨

徒競走は嫌、でも五年目になれば惨敗ののちの顔も晴れやか

059:畑

雨上がりのお芋畑のお土産は大きな芋と泥んこズボン

060:懲

懲役と死刑を秤にかけた上での7人の殺害だという

061:倉

新生児用体重計にモンチッチを乗せおり倉庫に身をかくす日は

062:ショー

仄暗き水槽に子は見入りたりショーを終えし白イルカ二頭の

063:院

下町の産院の医師なりし祖父のわたしは生まれ変わりだという

064:妖

ほどほどに付き合うことを子も知りて妖怪体操第一ができる

065:砲

もう君は大きいのだからそんな走って来たら大砲の弾みたいだ

066:浸

まきびしが転がる日々のつかの間をうさぎリンゴのための塩水

067:手帳

書いて書いて手帳を埋める己が身を愛するためのメソッドとして

068:沼

ずっと沼を歩きつづけたその先の発光をはじめそうな匂い、を

069:排

電話はいや。新聞やさんにもでない。排水管清掃からも逃げる。

070:しっとり

午後の雨の多き霜月前髪をしっとり濡らし子は帰り来ぬ

071:側

われの右側のあなたの右側の甘夏のワゴン販売の声

072:銘

叱責のメールを打ってその足で鉄剣銘を板書しており

073:谷

この冬のこどもたちとの約束の谷中銀座の飴屋の飴、ほか

074:焼

外泊をはじめてしたるおさなごの焼きマシュマロの話など聞く

075:盆

簡潔に言う男らしい藤原道長の書きし「盂蘭盆」の文字

076:ほのか

ぞんざいに子のいれてくれし珈琲のなみなみとほのかに温かし

077:聡

聡明というわけじゃなく優しいとも違って何というか姉です

078:棚

地球儀を寄せてタオルで棚を拭く今年もおひなさまを出そうよ

079:絶対

絶対という語の好きなおさなごが絶対と言うときのニヤニヤ

080:議

引きつぎをひとつ終えたり八月と十月の議事録なくしたまま

081:網

しかし証であるからちゃんといただいて大切にしまう連絡網を

082:チェック

ネクタイを買うことのなくユニクロのチェックのXLとしたしむ

083:射

射貫かれることより苦く青空を思慮のなき顔でみあげるばかり

084:皇

七歳の君は生きるよ皇太子をめんたいこって読みちがえながら

085:遥

それは見てきたように母子で語るなり遥かかなたの国の話を

086:魅

雨雲に魅入られっぱなしなるひと世わらう他ない人形でいたい

087:故意

故意じゃないことばかり選ぶという故意を海岸につくまで繰り返す

088:七

七歳の君は生きるよ三年生の男の子にやりこめられながら

089:煽

海風に煽られる君の髪などを痛いほど知る見知らぬままに

090:布

いちまいの布を窓辺に帆のようにかざしてたったひとりの船出

091:覧

図書館の閲覧室で知りし私たちの十五年のちの常用薬よ

092:勝手

うたがいの眼差しは雨みたいだからうたがいがかわくほど身勝手を

093:印

君の姓は草原の木蔭もらいうけし印をわたしの分霊、と決める

094:雇

しぶいしぶい顔をあなたはするだろう雇用とか職とかの話に

095:運命

運命とやがてことばにしなくなり本当の運命が根を張る

096:翻

伸びっぱなしの髪翻しゆきずりのゆきずりたる能力に殉ぜよ

097:陽

小春日の陽があたたかいこの午後にわたしの影をひとつ隠すよ

098:吉

吉報をひとつ携帯にうけておさなごに食べるべきものを聞く

099:観

観覧車まわれよまわれあした行く沖をてっぺんから愛そうよ

100:最後

ポンデリングの最後に食べる一粒を家族みんなで囲んでおりぬ