薫る夕暮れ、わかりはじめる

読んだもの、観たもの、いただいたもの、詠んだ短歌などについての記録。

La Rose et Les Planétes――『星の王子様』のモチーフを借りながら――

2015年9月19日に大阪・十三で開かれたマラソン・リーディング2015 in 大阪 with さくらこカフェ(@カフェスロー大阪)で朗読をさせていただきました。素晴らしい歌人の方々の間に交ざって朗読させていただけて、とても貴重な体験でした。

その際に朗読させていただいたテキストをアップします。

 

 

「 La Rose et Les Planétes――『星の王子様』のモチーフを借りながら――」

 

そもそもの僕らの日々に帰るため手ぶらで川辺へとゆきつきぬ

 

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「それ、なあに? そのしなもの?」「しなものじゃないよ。これ、飛ぶんだ。飛行機なんだ。ぼくの飛行機なんだ」ぼくは鼻を高くしながら、鳥のように飛べる人間だといってやりました。すると、王子さまは、大声をあげていいました。「なんだって! きみ、天から落ちてきたんだね?」

 

パジャマ着をコートでかくし出かけたる例えばドラッグストアの出会い

 

パンクというのは、飛行機のモーターが、どこか故障をおこしたのです。機関士も、乗客も、そばにいないので、ぼくは、むずかしい修理をひとりでやってのけようとしました。

 

退職は気の毒なものと皆が皆告げれば小さき羽をかくしぬ

 

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「だれかが、なん百万もの星のどれかに咲いている、たった一輪の花がすきになったら、その人は、そのたくさんの星をながめるだけで、しあわせになれるんだ。そして、〈ぼくのすきな花が、どこかにある〉と思っているんだ。それで、ヒツジが花をくうのは、その人の星という星が、とつぜん消えてなくなるようなものなんだけど、それもきみは、たいしたことじゃないっていうんだ」

 

児童指導調査カードに書く時の夫の名の楷書はのびのびと

 

「あんたのすきな花、だいじょうぶだよ……あんたのヒツジには、口輪をかいてやる……あんたの花には、かこいの絵をかいてあげる……ぼくは……」

 

もの言いにどうしようもなく滲みゆくこれは幸福 蕗を煮ており

 

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出発の日の朝、王子さまは、じぶんの星を、きちんと整理しました。念入りに活火山のすすはらいをしました。

 

こうばしき焼き餅を醤油餅にして朝餉もそこそこに家を出る

 

「そうか、では、あくびしなさい。命令する。わしは、もう、なん年か、ひとのあくびするのを見たことがない。あくびというものは、おもしろいものだな。さ、あくびしなさい、もう一度。命令じゃ」

 

綴っては突き、綴ってはまた突いてロケット鉛筆で書く物語

 

「なぜ、酒なんかのむの?」と、王子さまはたずねました。「忘れたいからさ」と、呑み助は答えました。

 

窓際に座れば右の肩冷えてひらく場所より季節は届く

 

「こんにちは。なぜ、いま、街灯の火を消したの?」「命令だよ。や、おはよう」と点灯夫が答えました。「どんな命令?」「街灯の火を消すことだよ。や、こんばんは」といって、点灯夫は、また火をつけました。

 

逃げよ、という声の聞こえて来し空を振り向きざまに塩となりたり

 

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「ぼくの友だちのキツネがね……」と王子さまはぼくにいいました。「ぼっちゃん、もう、キツネどころじゃないんだよ」「なぜ?」「だって、のどがかわいて死にそうだもの……」

 

密告の記事をひらきて密告のない国はないとあなたは言えり

 

「きみ、いい毒、持ってるね。きっと、ぼく、長いこと苦しまなくていいんだね?」

 

「はなたば」と不意にあなたが言いし時その明るさに驚いたのだ

 

「ね、とてもいいことなんだよ。ぼくも星をながめるんだ。星がみんな、井戸になって、さびついた車がついてるんだ。そして、ぼくにいくらでも、水をのましてくれるんだ」

 

「これくらい」の「くらい」がとても上手いから飲み込んでこの春へ駈けるよ

 

王子さまの足首のそばには、黄いろの光が、キラッと光っただけでした。王子さまは、ちょっとのあいだ身動きもしないでいました。声ひとつ、たてませんでした。

 

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きんいろが日ごと増しゆく陽光のきわまりに僕も砂になりたし

 

 

※本文引用は『星の王子さま』(サン=テクジュペリ作、内藤濯訳、岩波少年文庫二〇一〇、一九七六年改版発行)により、改行・振り仮名などを適宜改めて行いました。